長い書き損じ

「あーっ。」と、ね。

FitzHugh-Nagumo方程式について(非数学徒向け)

{}学祭のポスターを少し改変して載せようと思います。

基本的に一般向けの記事はわからないところを無視してもらって構わないです。

今年中にはサークルのサイトにポスターと資料が載るはずなのでそちらを見てもらえば一般の数学徒は満足できる内容になってる(のかな?刺激は得てもらえる?)と思います。とりあえずFitzHugh-Nagumo(フィッツフュー南雲)方程式についてポスターから抜選して記します。

明日はたぶん4年生の先輩の研究発表についてのレポになると思います。

正直中間で忙しいので忙しくても書けるネタがない。

本文

FitzHugh-Nagumo方程式とは

神経細胞を伝わる電気信号の過程を実験的に表現したHodgkin-Huxley方程式の本質を残したまま, 数学的に解析し易い形に簡単化したモデルである. Richard FitzHugh(1922-2007)と南雲仁一(1926-1999)により導かれた. 神経に関する多くの現象を表現できる優秀なモデルであり, 多くの研究がなされている.

Hodgkin-Huxley方程式とは

神経生理学者であるHodgkinとHuxleyは,ヤリイカの軸索に電極を突き刺し神経繊維上を伝わる電気信号の伝播課程を調べた. そしてその結果を4成分の偏微分方程式で記述した.
\[u_t=u_{xx} + f(u,v)\]
\[v_t=g(u,v)\]

\(t\):時間
\(x\):神経に沿った距離
\(u\):神経の電位を表す成分
\(v\):神経膜の状態を表す3次元ベクトルの成分|
\(f\):神経膜の働きを表す非線形関数(\(R×R^3\)→\(R\))
\(g\):神経膜の働きを表す非線形関数(\(R×R^3\)→\(R^3\))
のような形で表される.
この方程式によりHodgkinとHuxleyは神経興奮に関する基礎理論を立ち上げた. 実際にHodgkin-Huxley理論は認められ, 1963年にノーベル生理学医学賞を受賞している. 一方で, この方程式は実験データから作られていて複雑な形をしているため, 数学的には扱いづらく解析が難しいという欠点があった.
FitzHugh-Nagumo方程式


FitzHughとNagumoにより, Hodgkin-Huxley方程式の本質が損なわれないように一般化されたモデルである.
\[u_t=u_{xx}+h(u)-v\]
\[v_t=ε (u-γ v)\]
変数はHodgkin-Huxley方程式と同様である.
神経が興奮する現象について(自明解の性質)

FitzHugh-Nagumo方程式は神経細胞を伝わる電位を表す反応拡散方程式であり, 神経方程式という方程式に分類される.
反応拡散方程式や偏微分方程式の解などについてはいずれ説明すると思われるので, ここではとりあえず自明解と呼ばれる自明な解という概念を前提として話を進める.
FitzHugh-Nagumo方程式の自明解の性質を調べると神経が興奮する現象について考えることができる.


まず一つ目の性質として
\(t\to\infty\)のときすべての自明解は原点に収束する.
がある. これはフィッシャーの方程式などと同じく原点\( (u,v)=(0,0)\)という解は強い(安定している)ということである(それもかなり強い). 偏微分方程式を解く際には初期条件(最初に解がどこにあるかなどの情報)を与えなければならないが, その初期値が原点の近くにあるとき, その近くの解はその付近に留まり最終的に原点に収束する. 一方で \( (a,0\)の右側に初期値がある場合は外側に大きな軌道を描いた後に原点に収束する.

神経は小さな刺激には反応しないが, ある臨界値より大きな刺激には反応して興奮が起こるという特徴をモデル化できている. また興奮した後には一時的に反応が鈍くなる(臨界値が大きくなる)という直観的な認識と実験結果があるが, それも自明解の軌道から説明できる.
(ヌルクラインの図を載せたいのだけどはてなブログがepsに対応してないのでまた今度)

行波解の性質と考察(神経が伝播する現象の説明)}

反応拡散方程式について以前軽く述べたときに反応と拡散に依る波動現象は反応拡散方程式で説明できると言った. 神経細胞が興奮すると電気信号が軸索を伝わる. その形はパルス型と呼ばれるため, 数学的には進行波パルス解で説明できる. 心電図のように一つの波が通過していく様子を想像してもらえるとわかりやすいと思われる.

この電気信号は数学的にはパルス進行波解で説明できる. その解の性質を観察することでパルス信号を理解することができる. 実際にFitzHugh-Nagumo方程式にパルス進行波解が存在することは数値計算を用いて示される. 数値計算によると, 解の進行する速度が速く安定しているパルス解と遅く不安定なパルス解の二つが存在することがわかる.
この結果を解の性質を表す固有ベクトルが接する空間である安定多様体と不安定多様体などを導入したりホモクリニック軌道, 特異極限, 極限摂動法などを用いたりして深く分析すると, 小さな刺激では電気信号は発生しないが, 大きな刺激によって一度発生した電気信号が安定して他の神経細胞に情報を伝播・伝達できるということが数学的に明らかになる. つまり小さな刺激などのノイズでは電気信号の情報が失われないということであり, 神経繊維が理想的な信号伝送回路となっていることを数学的に保証している.
また, 複数の電気信号が発生した場合にそれぞれの電気信号の間の距離感により斥力と引力が働くということが, 多重パルス進行波解を一つのパルス解から分岐解析することでわかる. 他にも周期解が存在するのだが, それもパルス解の足し合わせで説明できたりする.