長い書き損じ

「あーっ。」と、ね。

反応拡散方程式の概説(一般の方向け)

反応拡散方程式とは

{}いきなり反応拡散方程式ってなんだよ!と思われると思うんですけど、

ズバリ、反応現象と拡散現象を説明できる方程式だと思ってもらえれば良いです。

$$u_t=\Delta u + f(u)$$

具体的にはこんなものです。これは成分が\(u\)一つだけなので単独反応拡散方程式と呼ばれています。

\(f(u)\)が反応を表し、\(\Delta u\)が拡散を表しています。非線形関数だとかラプラシアンだとか楕円型偏微分方程式だとか、わからない方はとりあえず無視してくださってよいです。(ぼくもわかりません。)

反応拡散現象の例

まずは反応拡散現象と聞いてもよくわからないと思うので一例を挙げましょう。
例えば何か発熱が起こると、発熱が起きた一点では温度が上昇する一方、その温度は熱伝導の法則で周りに伝わっていきます。発熱反応においては発熱が反応現象であり、熱の伝導が拡散現象にあたります。
化学反応が起きればその化学反応で発生する物質は増える一方で、濃度が均一になるようにその空間上に広がっていきます。化学反応では物質の生成が反応現象、濃度勾配が拡散現象にあたります。
伝わったり拡がったり、ということを考えると最近風邪も流行っているらしいですが、病気の感染も反応拡散現象で捉えられます。感染という反応現象で感染者が増加し、感染することでどんどん伝播(拡散)していきます。
とりあえず3つ挙げましたが、それぞれの分野に注目してください。物理、化学、生物(医学)です。これらは(少なくとも高校の課程では)直接関わりがないように思えましたが、実際のアルゴリズムは似ている。反応方程式はこれらの共通項を上手く抜き出して考察できるようにしてくれるツールなのです。

もう少し反応拡散方程式のすごさを説明します。

$$\frac{\partial u}{\partial t}=f(u,v)+D_u \Delta u$$

$$\frac{\partial v}{\partial t}=g(u,v)+D_v \Delta v$$

この方程式はさっきの反応拡散方程式を二つの成分\(u,v\)で考えてみたものです。この\(D_u,D_v\)は単なる定数で、二つの成分が同じように拡散してしまっては二つにした意味がない(単独反応拡散方程式で十分に考えられる)ことから\(D_u,D_v\)が新しく出てきています。

この方程式はどんな現象を表すのでしょうか。ただ、二つの成分が相互作用しながら反応と拡散をするという現象を表しているだけですが、2成分の場合の反応拡散方程式は途端に複雑になります。これは通称チューリング・パターンと呼ばれるもので、かの有名なアラン・チューリングが考案したものです。チューリング天才。

この反応拡散方程式の解が不安定になると縞模様や斑点模様などの不思議な模様を作り出すのですが、このような現象は現実世界でも見られます。例えば動物の表皮模様です。シマウマなどの表皮は黒色にする成分と白色にする成分の二つが相互に作用しあってこのような模様を形づくっているというわけです。実際には空間的に非一様な定常解の空間遠方の挙動だったり、定常解が周期的に存在したりしたときがキリンの斑点模様とシマウマの縞模様を作り出します。今回は深く触れません。

他にも波のような現象が反応と拡散により見られるときは波動現象を考えることもできます。実際に気象予報でいう寒冷前線温暖前線と同じような動きをする波はフロント型進行波解、心電図などのようにドックンドックンと同じ波がやってきてまた元の状態に戻って、また波が来てを繰り返すような場合はパルス型進行波解で説明できます。今回は深く触れません。基本的に波は双曲型偏微分方程式で表されるらしいのですが、楕円型でも表せるというのが面白いです。

フィッシャーの方程式

具体的な方程式を考えてみようということで、単独反応拡散方程式の中で、反応項\(f(u)\)を$$u(1-u)$$のようにおいた式$$u_t = \Delta u +u(1-u)$$を考えてみます。これはフィッシャーの方程式と呼ばれ、生物の増殖、遺伝、燃焼、伝染病などの現象を表せるとして研究されています。

今回はどんな方程式について考えているかは忘れてもらって、一旦解についてだけを考えてみましょう。
突然ですがこの方程式の解(その中でも定常解という解)は\(u=0\)と\(u=1\)があります。実はこの二つの解では\(u=0\)よりも\(u=1\)の方が強い(安定している)ので\(u=0\)から少し離れた解は\(u=0\)から離れて\(u=1\)に近づいていってしまいます。この現象は生物が少し発生して繁殖する現象を表していると考えられます。1成分しか考えていないので当然といえば当然ですが一種類の生物がただ増えていく現象を表せてそうです。例えば栄養が十分にある状態での微生物の増殖など。

一方で、生物が発生した地点から遠くの地点まで生物が繁殖して到達するのは時間がかかると思われます。 実際に生物の生息領域の拡大は波のように拡がって行くでしょう。 そこでフィッシャーの方程式には波を表す進行波解が存在するんじゃないかと調べると、ビンゴ。フィッシャー方程式にはフロント型進行波解が存在します。今回は触れません。

感染症モデルおよび積分方程式との比較

昆虫の群れについて、その密度を\(u\)、時刻を\(t\)、位置を\(x\)とすると

$$u(t,x)=\int_{0}^{t} \int_{-\infty}^{\infty} B(t-T,x-y) u(T,y)dydx +U_y(t,x)$$

こんな形で昆虫を媒介とする感染症のモデルが考えられるそうです。積分方程式は空間的な構造を導入するのに効果的で、実際に上記の積分方程式は中世ヨーロッパにおけるペストの伝播とほぼ一致する結果を数値計算により示しています。しかし、積分の計算は大変で、積分方程式を解析することは困難です。

一方、増減する生物が繁殖して拡がっていく様子は、拡散する度合を表す\(d\)と、生物の増減の度合\(\alpha \)を用いて、

$$u_t=d\Delta u+\alpha u$$

で表せるが、実はこの方程式の基本解はなんと上記の積分方程式の解となる。

つまり、生物の繁殖モデルを表す反応拡散方程式は感染症の伝播についての特殊な場合と捉えることができる。

反応拡散方程式は空間の状態を表現しにくい一方で、数値的に解析しやすいため、一度モデルに落とし込めると比較的楽に解析することができます。

 

 

反応拡散方程式すごい。

 

 

柳田英二, 反応拡散方程式, 東京大学出版会, 2015

伝染病伝播の反応拡散モデルについて, 応用数理, 14(2), 137-147, 細野雄三, 一般社団法人日本応用数理学会, 2004-06-25

 

を参考にさせていただきました。